Published: 2025-05-07 18:35

Mrs. GREEN APPLE──10年目の現在地

メジャーデビュー10周年を迎えるMrs. GREEN APPLEが、いま初めて語ることがある。『GQ JAPAN』だけに明かした新曲の舞台裏、記念ライブの構想、そして3人の変化と絆。がむしゃらだった10代を越えた先に見えてきた、音楽をする意味、表現者としての現在地、そしてこれからの話。3人の素顔と本音が詰まった、ロングインタビュー。

【写真を見る】10周年を迎えるMrs. GREEN APPLEが、音楽と絆の“今”を語る特別ロングインタビュー。

2015年、音楽シーンに鮮烈な風を吹き込んだMrs. GREEN APPLE。メジャーデビューから10年を迎える2025年、彼らは“過去”を総括するでも、“記念”にすがるでもなく、新しい物語を携えて再び立ち上がった。アニバーサリーベストアルバム『10』、7月開催の大規模野外ライブ『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE 〜FJORD〜』、そして秋冬に控える『BABEL no TOH』。すべてが、バンドの進化と覚悟を象徴する一手だ。

まずは、春に連続リリースされる3つの新曲について─そこに映る現在地を探る。

2025年の春、Mrs. GREEN APPLEが立て続けに世に送り出すこれらの楽曲は、どこか達観した空気をまとい、時折その奥底に死生観すら覗かせる。とりわけ「breakfast」に漂う余韻には、ただならぬ気配があった。《冷めないうちにあったかいご飯を食べよう／行ってきますとご先祖に手を合わせよう》─そんな一節には、日々の尊さと無常が詰まっていた。

「特に10周年だからといって、肩肘張って作ったわけではないんです」と語るのはボーカル／ギターの大森元貴。節目に意味を込めるより、ただ「素直になれた」ことの方が遥かに大きかった、と彼は続ける。

「死生観については、ずっと歌ってきているんです。でも、以前は“たくさんの人に届かせたい”という気持ちが強くて、どこか取り繕っていた部分もあった。今は、ありがたいことに多くの方が耳を傾けてくださるようになって、自然体で書けるようになった。だから、歌詞はより内面的になってます。メロディはポップなんですけどね」

その内面と外面のギャップすら、今は楽しんでいるようにも映る。

「音楽って、よく“ミクロとマクロ”“サブカルとメインカルチャー”みたいな線引きをされがちですよね。でも今って、その境界がどんどん曖昧になっている。だからこそ、大衆にも個人にも寄り添える音楽を作りたいなと思ってます。『breakfast』は、そういう曲なんです」

「昔のミセスにはできなかったことなのでは？」と投げかけると、大森は少し笑って「むしろ、昔っぽい気がする」と返してくれた。

「そうそう。どこか原点に立ち返っている感じがする」。そう話すのはキーボードの藤澤涼架。

「バンドに誘われた頃、大森が作ったデモを聴いたとき、人間の“性（さが）”みたいなものを感じたんですよ。キャッチーさだけじゃない、その奥にある情動。それが今、また戻ってきている気がします」

ギターの若井滉斗も、根底に流れるテーマの変わらなさに言及する。

「元貴が紡ぐサウンドは、時を重ねるごとに洗練されてきた。でも、歌詞に流れる死生観とか、諸行無常みたいなテーマは、ずっと変わってない」

「それが、今の時代に新鮮に聴かれているとしたら、ちょっと“してやったり”って感じかもしれない（笑）」と、大森は笑ってみせた。

原点への“帰還”でありながら、今という時代を纏った“更新”。その両面性が、Mrs. GREEN APPLEの今をユニークなものにしている。

「大衆音楽を作りたいという想いは、僕らの根底に常にあるんです。少しずつそれが形になってきた今だからこそ、もっと内面に向かって歌詞を書きたい。そもそも“大衆”って一人の人間じゃないですし、“個”が連なって全体になっている。だから、僕たちが目指すのは“普遍的な自分”であり続けることなんです。それって、すごく難しいことなんですけどね。自分を律するための判断材料とか、そういうアンテナをさび付かせないように、常に自問していたい。それが、僕の命題です」と大森はまっすぐ語った。

時代性と普遍性。その狭間に立つ者として、ミセスは立ち位置を曖昧にすることなく、明確な言葉で自らの今を語ってくれる。

「リスナーの受け取り方が多様化している時代だと感じていて。だからこそ、“自分たちがどれだけ楽しんで真剣に向き合えるか”を大切にしています。普遍性も、時代性も、どちらかに振り切るということではないんです」と藤澤は語る。

「感情って、結局ずっと4つしかないんですよ。喜怒哀楽。それは人類が生まれてから増えていない。ツールが進化しても、音楽の届け方が変わっても、本質的な感情は変わらない。僕が音楽を書くときは、“今の自分がどんな言葉をかけられたら少しでも心が軽くなるか”という視点がすべてです。時代が変わっても、その軸だけはブレていません」と大森は静かに言葉を結んだ。

そういった“変わらなさ”の本質に、ようやく彼ら自身が確信を持てるようになったのは、バンドとしての成熟があってこそかもしれない。この実感は、デビュー当初からあったのか？ と訊いてみると、大森は少し笑いながら話してくれた。

「いや、デビュー当初はもう少しがむしゃらだったと思います。いっぱい曲作りたい！ ギター巧くなりたい！ みたいな（笑）。自己顕示欲と承認欲求のバランスもとってたしね。でもそのうち、自分たちの持つ“言葉の力”を感じざるを得なくなって。背負わざるを得なくなった。でも、だからといって表現することに対して怖くなったわけじゃない。結局、ミセスはミセスのためにある。聴く人が1人でも、何万人でも、やっていることの本質は変わっていないんです」