Published: 2025-07-07 20:11

滝行や瞑想温泉、サウンドヒーリングなど、心を癒やすマインドフルネスな宿4軒──特集：自分磨きの夏旅へ

SNSでの反響が大きい華やかな旅も魅力的だが、滞在した自分しか知らない清らかな時間のある宿は心に効く。心の豊かさを育んでくれる宿は、写真映え以上の価値をもたらすだろう。2025年が折り返しになったいまこそ癒やし旅に出かけるベストなタイミング。マインドフルネスな宿を4軒紹介する。

【写真を見る】滝行のできる「静山荘」や、メディテーションバスのある「あらや滔々庵」をチェックする

1.宿坊 静山荘 ──都心からも近い奥多摩の宿坊で滝行を体験

古くから霊山と崇められてきた奥多摩の御岳山。山上集落には約20の宿坊があり、そのうちのひとつが「静山荘」だ。都心からは車で2時間弱、公共交通機関の場合はケーブルカーに乗って山の上を目指す。「静山荘」は江戸時代末期から続く宿坊で、静寂な山の中で滝行、瞑想、断食等の修行を体験することが可能。なかでも滝行目当ての宿泊者が多く、国外から訪れる人もいるとか。

■滝行で自分にとって不要なものを流していく

「滝行コース」は1泊2日から提供。滞在中は滝行、瞑想、呼吸法、クリスタルボウルヒーリングが体験可能だ。滝行の目的は、“自分自身のリセット”と“潜在能力の開花”。参加者は15時までに「静山荘」へ行き、山中の滝へと出発。山道を30分ほど歩き、到着したら白い鉢巻き、白いふんどし、白装束に着替え、神道の儀式を行う。その後、男性はふんどし一丁で滝に打たれる。10秒を3回繰り返した後は、精神的なリセットとともに爽快感も得られる。御師である主人が同行して指導を行うので、初めての滝行でも安心だ。

■高カロリーな食生活の人こそ食べるべき献立

5室ある客室は8〜16畳の和室。断食を利用する女性客も多く、清潔でシンプルな空間は自分と向き合うのに最適だ。料理は川魚の塩焼きや刺身、山菜などを使ったもので、旬の食材を飾りすぎずに仕上げ、その滋味深さは都会での外食を繰り返す人にとって新鮮なはず。朝食では五穀米とごはんのお供6品ほどを提供する。

■宿坊 静山荘

東京都青梅市御岳山43 0428-78-8445 全5室 「滝行コース」1泊2食ひとり¥18,150 https://www.seizan.gr.jp/

2.善光寺 淵之坊 ──写経、精進料理、お朝事で心を清める

創建約1400年の歴史を誇り、日本最古といわれる御仏を祀る長野県の善光寺。善光寺には39の宿坊があり、それぞれが御堂がもち、住職が存在する。住職は善光寺如来様に奉仕し、その護持に勤めるとともに参拝者を世話する伝統を受け継ぐ。「淵之坊」は精進料理に定評のある宿。美味しい食事をいただきながら、写経体験や善光寺本堂で毎朝行われる勤行「お朝事(おあさじ)」を参拝することができる。

■写経で精神を解放する

チェックイン後に行いたいのは、宿内仏前（縁起堂）での写経だ。心静かに般若心経の文字を書き写すことにより、我が身を浄化しすべての人々の幸せを招く功徳が得られるとされる。最後に名前と願い事を書き記し、翌朝のお朝事で善光寺へ奉納。願い事の一例は、「家内安全願」「健康長寿祈願」など。写経から夕食の精進料理、翌日のお朝時参拝がおすすめの流れだ。

■手作りの精進料理で身体の内側から豊かに

客室は明るい雰囲気の和室を4タイプ用意。夕食は信州産を中心とした植物性食材のみを使用した精進料理を提供する。善光寺詣りはハレの日の行事でもあり、ハレを意識しているため植物性のみの内容ながら華やかさもある。「淵之坊」名物の“満月”は、椎茸やくるみを味噌で炒めた餡を皮で包んだ蒸し物。皮には長野市松代産の長芋を使うなど、細部まで地元産にこだわっている。

■善光寺 淵之坊

長野県長野市長野元善町 026-232-3669 全8室 1泊2食ひとり¥16,200〜 https://fuchinobo.or.jp

3.あらや滔々庵（とうとうあん）──山代温泉の老舗旅館のメディテーションバス

小松空港からクルマで約25分に位置する「あらや滔々庵」は、藩政時代に前田家より湯番頭の命を受けたことが始まりで、当代が18代目。そんな由緒ある老舗は、山代温泉随一の湯量（1日約10万リットル）を誇る源泉かけ流しの温泉が高評価を受け続けている。趣の異なる3つの浴場を用意し、そのひとつがメディテーションバスの「烏湯（からすゆ）」だ。

■暗めの浴室と心地よい温度差が瞑想へと誘う

メディテーションバス「烏湯」が誕生したのは2004年。絶えることなく湧き続ける源泉を、ただ浸かるだけでなく五感で楽しんでもらうことをコンセプトに「烏湯」を作った。すると「烏湯は瞑想体験のようですね」という利用者たちの声があり、メディテーションバスと謳うようになったという。

瞑想へと誘うポイントは、源泉をミスト状にして室内に漂わせることと、視界を限定するため照明をあえて暗めにして浴室全体の壁を黒くしたこと。いまでこそ黒い壁や浴室は当たり前だが、当時としてはかなりチャレンジングだったとか。

そこに36～37℃ と41～42℃、異なる温度の浴槽がふたつ並ぶ。利用者は温度差のある浴槽へ交互に入り、隣のチェアで休憩することで軽く“ととのう”感覚を味わう。「いつもの入浴とは異なる温泉の体験をしていただけると思います」と現当主。老舗が20年以上前に考案した利用者を思っての工夫が、いまのマインドフルネスのニーズに合致している。

■魯山人の存在を感じる趣深い客室

設えの異なる9タイプの客室を用意。加賀らしい朱壁や漆の柱をもつ特別室や、木造離れの一軒家など贅沢な客室もあり、半数以上が半露天風呂を客室内にもつ。夏の夕食には赤イカ、鮑、加賀太胡瓜、へた柴茄子などが使われ、季節を表す器にも注目。

「あらや滔々庵」の15代目はまだ無名だった頃の北大路魯山人と親交があり、当時から作品を注文していたという。宿には魯山人初めての陶芸作品と言われる赤絵皿はじめ貴重な作品が残っている。

■あらや滔々庵

石川県加賀市山代温泉18-119 0761-77-0010 全17室 1泊2食1名¥69,300〜（2名1室1名¥49,500〜） https://www.araya-totoan.com

4.湖畔遊 ー 高知の大自然に包まれながら、音と湯に癒やされる

湖畔に面した3,000坪もの敷地内に4室だけ客室を設けゲストを迎え入れる「湖畔遊」。対岸には森が広がり、水面には木々の影が映る。景色は全室から望むことができ、すべてに源泉かけ流しの温泉露天風呂を用意する。「自然体で過ごすこと」をテーマとし、天然温泉や、自然農法で育てた野菜や穀物による料理で健やかな滞在を叶える。さらに心を清らかにする大きな要素が、ヴィンテージオーディオから奏でられる上質な音楽だ。

■心身に効くヴィンテージオーディオの音

サウンドセラピーが日本でも注目され始めているが、「湖畔遊」はオーディオにこだわった結果、自然と音を楽しめる宿となった。「お客さまを客室にご案内する際にオーディオのご説明をして、音を聴いていただくのですが、みなさんが“凄い”と驚かれます」と女将。

客室ごとに異なる真空管とスピーカーを用意し、客室名は音響設備に由来する。例えばスイートヴィラ「ウェスタン」なら、真空管は1972年米国製「ウェスタン エレクトリック 300Bを使用ののアンプ」、スピーカーはイタリア製「ソナス・ファベール」。CDも客室ごとにオーナーがセレクト。温泉あがりに湖畔と森を眺めながらその音を体感すれば、すべてが一体となり、心身がととのうだろう。

■都会のストレスから解放される環境

宿は物部川中流の静かな場所に位置するので、日常で耳にする人工音から解放される。だからこそ音質にこだわりオーディオを揃え、音を堪能するための家具やバルコニーを客室に設置。温泉は国内でも非常に珍しい、天然にごり湯アイソトニック（等張性）温泉。肌に優しく滑らかな浴感で、美肌の湯としても知られている。

料理の主役は、無農薬にこだわった自家栽培の野菜。米も地元で大切に育てられた無農薬栽培米を使用するなど、野菜ソムリエの女将が自ら厳選した食材でコースを組み立てる。宗田節・昆布・だし雑魚の出汁を毎日引き、四季折々の食材の香りを引き出し、味覚からも癒やしを感じられる宿だ。

■湖畔遊

高知県香美市香北町有瀬100 0887-59-4777 全3室 1泊2食2名¥183,600～ https://www.kohanyu.jp

文・大石智子 編集・遠藤加奈（GQ）