Published: 2025-07-01 04:41

能登半島地震から1年半 石川 奥能登地域で人口10％余り減少

能登半島地震の発生から1日で1年半です。石川県の奥能登地域では地震が起きてから人口が10％余り減少していて、被災地のにぎわいを取り戻すために復興をどう進めるのかが課題となっています。

去年1月の能登半島地震では、石川県と富山県、新潟県で災害関連死を含めてあわせて616人が亡くなりました。

災害関連死については遺族の申請を受けた審査が続けられていて、さらに増える可能性があります。

被災地では人口減少も進んでいます。県の発表によりますと、地震の被害が特に大きい石川県の奥能登地域の4つの市と町では地震が起きてからことし4月末までの1年4か月で人口が10.7％減少しています。 珠洲市によりますと住民基本台帳にもとづく人口をみると、地震の前は1870人余りが暮らしていた珠洲市宝立町では、ことし5月末時点で300人減り、減少数は市内で最も多くなっています。

地元の住民でつくる区長会が調べた結果、宝立町でも今後の生活に不安があるとして子育て世帯などが地域から離れる動きが出ていて、住民票の登録があっても実際には金沢市などに暮らす世帯も多いということです。

宝立町区長会の多田進郎会長は「復興できるのか、地域を維持できるのかという不安があります。8月に2年ぶりに開催される地元伝統の祭りには地震のあと地域を離れた人も参加するのでつながりを維持したいと思いますが、今後、復興が進んだ時に地域に戻るかどうかをもう1度考えてほしいです」と話していました。

能登半島地震の発生から1年半となる中、被災地のにぎわいを取り戻すために復興をどう進めるのかが課題となっています。 復興へ向け「関係人口」増加へ こうした中、石川県や自治体などがいま力を入れているのが「関係人口」の増加です。

「関係人口」は、地域に移住した「定住人口」や、一時的に訪れる観光客などの「交流人口」とは違い、別の地域に居住しながら継続的に訪れて地域や住民と深く関わる人のことを言います。

能登半島地震の被災地の石川県珠洲市にあるシェアオフィスは、首都圏や関西などから能登地方に継続的に訪れる人たちの活動拠点となっています。

運営する会社によりますとおよそ100人が利用していて、県外から珠洲市を訪れる人がおよそ8割を占め、地震のあと利用者は大幅に増えているということです。

中には東京都内で暮らしながら、能登地方で漁業関係の会社を立ち上げて復興にも貢献したいという40代の男性や、被災地で新たな事業に取り組もうという首都圏の大学に通う学生などがいるということです。 シェアオフィスを運営する会社「CとH」の伊藤紗恵さんは「ほかの地域から訪れるさまざまなスキルのある人と地元の住民がつながることで、地域活性化の新しいモデルが確立できればと思う」と話しています。

珠洲市は「被災地を継続的に訪れる人の動きがあることは把握している。人口の減少でさまざまな場所で慢性的な人手不足となっていて、市としても関係人口の促進などに力を入れたい」としています。 東京から通い続ける人は 能登地方の被災地を継続的に訪れる人からは、復興に携わるだけでなく、地域との交流を通してみずからの暮らしも充実させたいという声が聞かれました。

東京都に住む高屋典子さん（60）は、能登半島地震のあと、毎月2回ほど珠洲市を訪れている「関係人口」の1人です。

高屋さんは都内の電力会社で働きながら、国内の芸術家を支援する活動もしていて、8年前に珠洲市で開催された「奥能登国際芸術祭」を訪れたことをきっかけに、能登半島の自然の美しさや地元の人の温かさに魅了されたといいます。

去年の能登半島地震で珠洲市の伝統工芸品である「珠洲焼」の作家や窯元が大きな被害を受けたことを知り、復興を支援したいという思いで通い続けています。 「珠洲焼」の復興につなげるために地元の作家と一緒に取り組んできたのは、大阪・関西万博にあわせて開催される「日本国際芸術祭」への珠洲焼の出展です。

地震の被害を受けて作品づくりをあきめていた作家も相次ぐ中、高屋さんは窯元をまわって「復興に向けて力を合わせよう」と呼びかけ出展が決まりました。

「日本国際芸術祭」の会場では2日から5日間、5人の作家が制作した珠洲焼の花器や食器などおよそ200点が展示されます。

支援を受けた作家の1人は「見守ってくれる人がいるのはとても心強いし、自分も頑張ろうと思えます」と話していました。 高屋さんは、能登地方を繰り返し訪れることで、生まれた地元の人との交流や新たなつながりは都会の生活では得られないもので、心のよりどころになっていると話します。

高屋さんは「能登地方を何度も訪れることで生まれた新たなつながりから学ぶことは多く、今後も能登地方に通い続けたいです」と話していました。 企業も取り組みを模索 被災地の復興を進めるための「関係人口」を増やそうと、都市と地方をつなぐ取り組みを模索する動きは大手企業の中にも出てきています。

「日本航空」と流通大手「イオン」は「関係人口」を増やすために、社内に担当部署を設置するなど、新たな取り組みを進めようとしています。

6月20日には、2つの会社の担当者が能登地方の「関係人口」の活動拠点となっている石川県珠洲市のシェアオフィスを訪れ、都市と地方をつなぐ取り組みについて意見を交わしました。

この中で被災地の復興に向けては「関係人口」の創出は欠かせないとして、行政や地元企業とも連携した仕掛けづくりが必要だという意見が相次ぎました。

また「関係人口」を増やすためには、都市に住む人と能登半島をつなぐ活動をしているNPOや企業などをサポートする、中間支援を進めることが重要だという声も聞かれました。

能登半島は少子高齢化に加えて地震による被害で人口減少が加速しています。

少子高齢化と人口減少は今後、日本全体が直面する課題で、2つの会社は、被災地で「関係人口」を増やすことは復興を後押しするだけでなく、ほかの地域の活性化に向けた取り組みにもつながるとしています。 日本航空の能登復興事業統括の上入佐慶太さんは「地方の少子高齢化は企業にとっても大きな課題だ。能登半島の被災地で課題解決の先行事例ができればほかの地域の活性化にも生かすことができる」と話しています。 専門家「復興に向けた大きな力に」 石川県の「復旧・復興アドバイザリーボード委員」を務める高橋博之さんは「関係人口」の創出が被災地の復興に向けた大きな力になると指摘します。

東日本大震災の被災地でも「関係人口」の創出に取り組んできた高橋さんは「移住は『定住人口』で1番よいかもしれないが、ハードルが高い。観光は『交流人口』になるが通過していってしまう。一方『関係人口』であれば、1人1か所ではなく2か所や3カ所でも地域に関わることができる。継続的に関わる人と一緒にまちづくりに取り組めば人口が減っても活力が維持できる」としています。

そのうえで「『関係人口』は復興の大きな力にもなることから、『関係人口』として能登地方を訪れる人たちを取りこぼさないために、実態を把握することが急務だ。関係性の濃度や能登地方を訪れる頻度などを把握するための制度づくりを進める必要がある」と指摘しています。

さらに高橋さんは「少子高齢化は能登地方に限った課題ではなく将来的には日本全体が直面する課題であり、能登地方で『関係人口』を活用した復興が成功すれば、少子高齢化や過疎化が進む地域での課題解決の先例になる」と話していました。