Published: 2025-09-29 12:10

岡田将生「最近になって、意外と自分は人が好きなんだと気づきました」──映画『アフター・ザ・クエイク』は10月3日公開

村上春樹の短編連作小説「神の子どもたちはみな踊る」を映像化した映画『アフター・ザ・クエイク』が10月3日に公開される。岡田将生は、「最近になって、意外と自分は人が好きなんだと気づきました」と照れくさそうに笑った。

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第74回カンヌ国際映画祭で日本映画初となる脚本賞ほか3部門に輝き、第94回アカデミー賞では作品賞にノミネートされる快挙を成し遂げた『ドライブ・マイ・カー』から約4年──。NHKドラマ「地震のあとで」および再構成した映画『アフター・ザ・クエイク』で原作：村上春樹、脚本：大江崇允、プロデューサー：山本晃久と再び組んだ岡田将生は、自身の思考や価値観の変化を如実に感じていた。

「『ドライブ・マイ・カー』の撮影は、僕の俳優人生において『もう二度とないであろう』と思える忘れがたい時間でした。役のすべてを把握できていないまま濱口竜介監督に一生懸命ついていくなかで、自分の “世界”が変わる瞬間を何度も体験したのです。『アフター・ザ・クエイク』の撮影中も、小村という人物のわからなさと向き合い、井上剛監督をはじめとするスタッフの皆さんと話し合うなかで当時のことをよく思い出していました。

村上春樹さんは著作の中で“からっぽ”という表現をよく使われますが、その解釈も一様ではありませんし、人間自体がわからなさを有しているもの。僕自身、人間は多角的でとても面白いなと最近よく思います。現場にいると、『何かしらの正解を見つけないといけないのではないか』と恐怖心に駆られがちですが、時間をかけて苦心しながら皆で創り上げること──それこそが有意義なのだと今なら思えます」

人間は面白い──。『悪人』や『星の子』、『さんかく窓の外側は夜』『Arc アーク』ほか、人間の複雑性を具現化する能力に長けた岡田だが、「最近になって、意外と自分は人が好きなんだと気づきました」と照れくさそうに笑った。

「僕はとても人見知りで、初対面の方が相手だと身構えてしまってなかなか上手く話せません。でもその根底には『相手のことを知りたい』と思っている自分がいます。僕自身は自分の無関心さに嫌気がさしている時もあったのですが、友人から『そんなことないよ。むしろ人が好きなんじゃないか』と指摘されてその感情に気づけました。ここ2、3年で出会えた人たちや作品、キャラクターによって、自分を形成している歯車が少しずつ変わってきた実感があります。そうした中で、仕事への向き合い方だけでなくプライベートの部分も変化できたと感じています」

人間を知ることは、自分を肯定し、他者を受け入れる道でもあるのだろう。岡田は「これは笑い話ですが」と前置きしたうえで、「10代から演技の仕事をさせていただいていますが、自分に対して手ごたえを感じられたことが実はほとんどありません」と打ち明けた。

「“今日はやりきった”と思える日はあるのですが、“やったぜ！俺は今日上手くできた”と思えた日は数えるほど。撮影後、落ち込んで家に帰る日がほとんどです。でも、そんな暗い自分とも少しずつ上手く付き合えるようになってきました。大きな変化は、10代・20代の俳優さんと仕事をする機会が増えてきたことかもしれません。かれらが持つエネルギーや“何か掴むまで帰らない”という姿勢がすごく好きで、『何か手ごたえを持ち帰ってほしい、その手助けがしたい』と、心から望んでいる自分が生まれてきました」

誰が為という想いが、背中を押す。『アフター・ザ・クエイク』の撮影現場でも「何もわからない状態から皆で”ああだこうだ”と解釈を持ち寄り、作っていくなかで“わからないことは決して恥ずかしくない”と思えました」と、共同作業の悦びを再認識したという。自己評価はいまだ反省ばかりというが、共にものづくりを行う他者への感謝は揺るぎない。自身の歩みを振り返るなかで「若い頃からたくさんの作品に関われたことで、今があると思っています」という言葉が口をついて出た。

「これまで自分の好みの作品ばかりをやってきたわけではありませんが、今では一つひとつがとても大切な存在になりました。様々なジャンルの作品に取り組ませていただくなかで視野も広がりましたし、『こうしたらもっと面白くなるのではないか』と考えて、試行錯誤するきっかけを与えてもらえましたから」

役者とは、他者を演じる者だ。ならばこそ、人間の心理や性質に対する探求を一層進め、“わからなさ”の真髄を理解した岡田の表現にはさらなる説得力が伴う。

「自分とまったく同じ価値観の人はいませんし、僕自身もまだ知らない自分に出合うこともあります。年齢を重ねれば重ねるほど、『自分ってこういう風に思うんだ』『こんな冷徹な一面があるのか』という気づきをしっかりと見つめられるようになってきました。それをキャラクターに活かせるときはそうしますし、『アフター・ザ・クエイク』のように敢えてすべてなくして自分の意志を持たず、流れるままに演じてみることもあります。人間を演じるうえで様々なアプローチがあると思えたこと、そして『この人を知ってみたい』と思える相手を演じることが、いまの仕事の楽しさに繋がっている気がします」

作品に影響されることが多いタイプ、と自己分析する岡田は、「だからこそ、自分自身にいい影響を与えてくれる仕事と出会いたいという想いで作品を選んでいる部分もあります」と語る。そして、「“生と死”が近年のひとつのテーマ」と明かした。

確かに、教育の在り方を問う意欲的なテレビドラマ「御上先生」、働き方に切り込む『ラストマイル』、細田守監督による復讐劇『果てしなきスカーレット』（11月21日公開）など、近作にはそうした意志が感じられる。『アフター・ザ・クエイク』を経て、その内面の変化と共に観察眼は肥え、人物解像度は増していくのだろう。