Published: 2023-04-27 11:50

汚染された永久凍土は融解とともに“時限爆弾”になる：研究結果

これまで、永久凍土にはさまざまな汚染物質が埋められ、閉じ込められてきた。しかし、北極圏に多数存在する汚染された凍土が地球温暖化の影響で溶け、その過程で有害物質も流れ出ることがわかってきた。今後は大規模な浄化の取り組みが急務になるだろう。

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人類は長い間、採掘、石油・ガス探査、軍事基地建設といった産業開発で北極圏を汚染してきた。汚染は放射性物質、重金属、殺虫剤、燃料などさまざまな有害物質によって引き起こされた。その種の汚染物質は永久凍土と呼ばれる凍結した土壌に計画的に埋められる場合が多かった。理論上は凍土が凍ったままなら、汚染物質は土の中に封じ込められたままだからだ。

だがもはやそういうわけにはいかなくなっている。学術誌『Nature Communications』に3月末に掲載された論文によると、北極圏の永久凍土地域には汚染された場所が推定で13,000～20,000カ所散在しており、そのうち3,500 ～5,200カ所は今世紀末までに土壌の融解による影響を受けるという。

すでに北極圏では温暖化が急速に進んでおり、その速さは地球のほかの地域の4倍を超えているという。そして一部の場所では融解が大幅に速まっているかもしれないので、4倍という推定値は低い可能性があると科学者は警告する。

永久凍土が劣化して崩壊すると、凍土に埋まっていた汚染物質が、溶けた氷の中に流れ出す。地盤がしばしば驚くほど急激に沈下しているせいで、燃料タンクやパイプラインのような地上のインフラまで沈下している。事実、2020年にロシアのノリリスクで倒壊したタンクから17,000トンの油が流出した環境災害の原因は永久凍土の融解だと考えられている。

「永久凍土は水文学的障壁で永久にそのままのはずだという思い込みがあるのです」と、アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所とアムステルダム自由大学に属する永久凍土の研究者で今回の論文の筆頭著者であるモーリッツ・ランゲルは言う。

「昔からあるこうした産業用地の永久凍土はすべて凍ったままだと思われていました。特に1970年代から80年代、90年代まではそうです。当時ほとんどの人は気候温暖化やそれによって生じる永久凍土の融解の問題に気づいていませんでした」とランゲルは説明する。

ランゲルらは、こうした産業用地の70パーセントがロシアやアラスカ、カナダ、グリーンランドにあることを突き止めた。一部の施設は打ち捨てられ、立ち入りも汚染物質の除去も困難だ。ほかの施設はいまも稼働しており、より多くの有害物質を発生させ、自然環境に流出させている（ただし今回の論文では、どの施設がどのような状態なのか厳密に区別していない）。

北極圏の温暖化に伴い、産業および軍事開発がさらに北に進み、汚染物質がさらに増え、さらに多くの人々が汚染物質に触れるようになると予想される。そして土壌がどろどろとして柔らかいほど、重機による汚染物質の除去が困難になる。

米航空宇宙局（NASA）のジェット推進研究所（JPL）で永久凍土の汚染を研究している気候科学者キンバリー・R・マイナーは今回の論文に関わっていないが、次のように話す。

「この論文が出るまではまったく知られていなかったのですが、スーパーファンド・サイト（廃棄物による汚染が深刻で、米環境保護庁によって浄化が必要であると指定された場所）かもしれない多数の場所が、北極圏の、さらには世界の自然環境で発生している可能性があるという見解は、かなり恐ろしいものです」

「論文の執筆者がこの見解を採用して実際の地図に当てはめ、地表の下にある永久凍土が汚染されている場所を特定する。その詳細を知ることになり、とても衝撃を受けました」